書評者と著者と読者の本屋「松原商會」@PASSAGE by ALL REVIEWS のBlog

社会経済学者・松原隆一郎(放送大学教授、東京大学名誉教授)と丁稚が営む、書評と書評された本と読者をつなぐ一棚書店

#20 吉川祐介さんにとって「書くこと」とは/『限界ニュータウン』著者・吉川祐介さん、いらっしゃい【6/全11回】

吉川さんのブログや本を読まれた方はご存じのとおり、吉川さんの文章には独特の味があります。この文章力はどうやって培われたのでしょう。今回は、吉川さんに「書くこと」についていっぱいお聞きしました!

「吉川さんは町田康のようです。」(松原隆一郎會長)

會長 吉川さんはいろんな仕事をなさっていますね。バスの運転手とか、コンビニの店員とか。

吉川 ずっとそんな生活だったんですよ、私。本を書くなんて想像もしたことなかったです(笑)。

會長 それにしては独特な語り口で、お書きになる文章にも文体があります。

吉川 確かに、本はすごく読みました。基本的に古本屋に行って、目についた本を買うという感じで。ジャンルも雑多で。

會長 それって、町田康と同じです。

町田康私の文学史: なぜ俺はこんな人間になったのか?

作家になって芥川賞をとる前、「町田町蔵」って名前でパンクミュージシャンをやっていた頃、古本屋で手当たり次第に百均の本を買ってきて読んでいたそうです。芥川賞の選評にも「この人がどれほど大量の本を読んでいるのか分かる」とあったほど。

吉川 私も本当に雑多な本を読んでいました。

會長 どれくらい本を読んでいるかは、文体にでます。吉川さんの本からも読書遍歴が伝わってくる。

丁稚 特にノンフィクション作家の鎌田慧さんの本を読んでいらっしゃったそうですね。インタビュー記事で読みました。

吉川 鎌田慧さんの著作は、もう半世紀も前のすごく古い本です。私はとりたてて特定の著者を熱心に追いかけて本を買っていたわけでもないのですが、『死に絶えた風景』などをよく読んでいました。

會長 新日本製鐵の話ですね。『自動車絶望工場』はトヨタについて書いている。

鎌田慧を読んできたからか、吉川さん自身にも現場に潜り込んで調査して、っていう志向が感じられます。

鎌田慧自動車絶望工場-ある季節工の日記』(丁稚私物)

本の執筆依頼が次々と!「執筆計画」の立て方について語り合う

丁稚 次の本のご予定はあるんですか?

吉川 はい。1冊は新書で、もう一つは単行本でお話が始まっています。

限界ニュータウン』では主に住民や暮らしにスポットを当てていて、楽待不動産投資新聞では悪徳不動産業者の話を書いたりしてるんですけども、前著は社会問題としてはあまり掘り下げてないところがあるので、新書でわかりやすくまとめるつもりです。

単行本は、これから企画を詰めていくところですが、YouTubeの作成のために取材したネタで展開していこうと考えています。

丁稚 新書はたくさん売れそうですね。

吉川 初版の部数を聞いて、さすが新書だなと思いました。

丁稚 いつごろ刊行予定ですか?

吉川 新書は来年初頭発売予定です。

吉川 あと1社、東京でやったイベントの時に編集者さんからお話をいただいたんですが、3冊同時にはちょっと無理なので待っていただいています。しかたなく。

本当は執筆の仕事を最優先でやりたいんですけと…。

いただく仕事を全部は受けきれないので、仕事量とスケジュールを上手く調整する方法を考えないといけないなと思っています。

會長 着実にやられた方がよいでしょう。出版社に期待されることも重要ではあるからつい無理しちゃうけど、内容がよければ遅くても編集者はついてきてくれます。

吉川さんの「ニュータウン」と、社会学者の「ニュータウン

會長 社会学者のいう「ニュータウン」は、学者の仲間内の表現かな。「虚構の果て」の空気感の描写は吉川さんにすっかりとられてしまった。

吉川 たぶん、私が扱っている「ニュータウン」は、その方々が言っている「ニュータウン」のさらに外側だと思います(笑)。

會長 まだ夢があるのが「内側」なのか。…「外側」を書くのにはセンスが必要です。

吉川 実際に住んでる人は他にはいない、とはよく言われます。

吉川さんの「次のネタ」について話し合う

會長 さらに次はどんなテーマですか。

吉川 次の本のネタも考えていかないと…。出版社さん、待ってくださっているので。

會長 多方面で待たれています。

吉川 僕、「ジモティー」で自分の土地を売ったりもしたことがあるのですが、そのへんの話は詳しく書いたことがないので、それでもいいかなと。

會長 それは食いつきがあると思う。限界ニュータウンの土地って、安くても売買にリスクはないのか、とか。ネタにして吉川さんに勝てる相手はいないでしょう。

土地の売買が趣味だったのですか?

吉川 そうですね(笑)。以前買った土地が、生活が変わって要らなくなっていて。ちょうど『限界ニュータウン』を書いている時に、お金もなかったので売ることにしたんですが、不動産屋に仲介手数料を払いたくなかったので、「ジモティー」で自分で広告を出しました。

jmty.jp

購入希望者は外国人ばかりだったんですけど。ほとんどスリランカ人でした。

會長 自分で広告を出した、って…素晴らしい。そのスリランカ人たちはコミュニティーを作っているの?

吉川 なんでしょうね? 私が暮らしている地域のスリランカ人は中古車の輸出をやっている人がとても多いので、その関係かと思うんですけど、

會長 一時期、新潟からロシアに中古車を大量に輸出していましたが、そういう関連の仕事かな。

吉川 スリランカでは、日本のような不動産売買市場が発達しておらず、人のコネクションを介さないと不動産を買えないらしくて、彼らは母国と同じ感覚で土地を探しているのだと思います。
私が売っていた土地は狭かったので、「社長、もっと広い土地ないの?」とか何度も聞かれて、「俺は不動産屋じゃないからここしか持ってない」って何回も言ったんですけど(笑)。今でも「社長、土地ないの?」って電話かかってきます。

會長 その話ですでに本を書けそう(笑)。

吉川 それとはまた別件で、この前は岩手まで土地をもらいに行きました。そういう話はまだ書いたことがないので、また違う切り口で書けるかなと。僕の個人的な話になりますけど、同じような話ばかり書いていてもしょうがないので。

YouTubeと執筆とのかねあい

吉川 私、執筆をメインでやっていきたいので、YouTubeとの兼ね合いをどうするかも考えています。

會長 YouTube、あそこまで作り込んでいたら大変です。

吉川 やりすぎましたね(笑)。動画はもっと費用をかけないでやっていかないと。

會長 衝撃を受けました。「資産価値ZERO」ってタイトルもおもしろすぎる(笑)。

吉川さんのYouTubeチャンネル。丁稚も初めてこのタイトルを見たとき、コーヒーを吹き出しました

吉川 でも、何百万回再生されるような動画でもないですから。そもそも内容的にそうなるのは無理だと思いますし。あの題材では子供は見ないので。どうしてもターゲットがしぼられてしまう以上しようがないです。

ただ、応援のメッセージをいただけるのはうれしいです。

丁稚 執筆のほうに力を入れていきたいのはなぜですか?

吉川 文章を書いてるほうが100倍楽しいからです。

會長 書き物って、ずっと籠ってやらないと気持ちが折れちゃうところがある。YouTubeを同時には大変ですよ。

吉川 それに、私、動画編集って苦痛でしかないんですよ。取材や撮影をしているときはいいんですけど、編集はつまらないです。

會長 それにしては遊び心は満載ですよ。よく作り込んでいますね。「磯村建設~♪」とか音楽入れたり…。僕の家の近くを取材なさった回もありました。荻窪日大二高通りの。

吉川 サンハイツ荻窪ですね。

會長 こんなところまで来てるって、びっくりした。

吉川 磯村建設が作ったマンションですね。あのマンションの撮影のためだけに荻窪に行ったんですよ。車で行ったのでコインパーキングに入れようと思ったんですけど、サンハイツ荻窪の前が袋小路だったので、一緒に行った妻に車を見ててもらって、1分くらい撮影して、すぐ車に戻りました。

次回は、「限界ニュータウン」は解決できるのか、についておしゃべりします!おたのしみに!