書評者と著者と読者の本屋「松原商會」@PASSAGE by ALL REVIEWS のBlog

社会経済学者・松原隆一郎(放送大学教授、東京大学名誉教授)と丁稚が営む、書評と書評された本と読者をつなぐ一棚書店

#19 「都市計画の元の資料ってどうやって調べるの?」…「限界ニュータウン」調査方法を吉川祐介さんに教えてもらいました!/『限界ニュータウン』著者・吉川祐介さん、いらっしゃい【5/全11回】

吉川さんが見せてくださった分譲地の新聞広告(どんなインチキ広告かは「#17 「健康を保証する緑の高台」「お子様の成長とともに鯉のぼりのごとく値上がりする土地」…「分譲地インチキ広告」を吉川祐介さんと一緒に味わう/『限界ニュータウン』著者・吉川祐介さん、いらっしゃい(3 / 全11回)」、これを調べる作業の狂気については「#16「新聞縮刷版」を調べるのに発狂寸前……/『限界ニュータウン』著者・吉川祐介さん、いらっしゃい 2回目」をお読みください!)を眺めながら、あらためて感嘆する松原隆一郎會長。

會長 吉川さんはよくここまで調べていらっしゃる…。学者のようです。

吉川 他に手段がなかったので(笑)。何の情報もなかったものですから。

會長 僕、三浦展さんの『昭和の東京郊外 住宅開発秘史』(光文社新書)という本を、やはり毎日新聞で書評したんです。

mainichi.jpこの本は昭和20年代から30年代くらいまでの間にどんな乱開発が行われていたか、実際に配られたチラシを載せて、その後の想像は読者に任せている。

一方、吉川さんは法務局に出かけて、その後の実態を動画でレポートしている。チラシで終わらせない。

(ここで、會長がカバンをゴソゴソ)

會長 じつは今日、吉川さんにおみやげを持って来ました…(笑)。

會長から吉川さんに「おみやげ」進呈!

會長 僕の父方の祖父、頼介の伝記『頼介伝』です。

松原商會の推し本!會長が自分のおじいさん(頼介さん)の人生を調べまくって書いた『頼介伝』(苦楽堂)

會長 PASSAGEの棚に名付けた「松原商會」という名前は、祖父・頼介が大正時代に興した会社の名前なんです。

この本を書く時、僕のじいさんが何をやってたか、100年くらい前のことを調べて初めて知りました。その際、土地の台帳も調べたので、それについては僕も経験したからわかるんです。でも、吉川さんは都市計画の元の資料まで調べている。感嘆しました。

やり方、教えてほしいです。

吉川 はい(笑)。

吉川さんの著書『限界ニュータウン』。今も順調に版を重ねています!

吉川祐介さんはいかにして調査方法を身につけたか

吉川 都市計画の調べ方については、『限界ニュータウン』を書き始めた頃、ちょうど不動産会社に勤めていて、仲介の依頼を受けた売地について調べたりしていたので、土木事務所に行くとか、何を確認すべきかとか、そこで身に付けた手段をそのまま使いました。会社自体はすぐ辞めてしまったんですが。

行政機関にいろいろ問い合わせて資料をもらうのは、若いころよく読んでいたノンフィクション作家の寺園敦史さんの手法そのままです。あの方はずっと情報公開制度を使っていました。

會長 情報公開制度で、使えるデータは出てくるものですか?

吉川 私が役所から出すデータは、情報公開制度を使うまでもなく、普通に窓口で請求すれば出してもらえるものがほとんどですけど。寺園さんは同和対策事業についてのデータを請求していたので、黒塗りで出てきたり、なかなか出してもらえなくて、訴訟を起こしたりしていました。

同和対策事業の話になると、自治体は態度を硬化させることが多いのでそうなりがちなんです。古い運動団体の資料などを読むと、役所のナントカ対策室とか占拠してる写真などが出てきますから。窓から旗とか掲げて。でも、今は逆に役所が過敏になりすぎているような気がします。

「窓から旗とか掲げて」はこんなかんじ?(吉川さんのマンガ作品「during the WAR -丘のまちの姉妹-」の一コマ目)

會長 話を調査方法に戻すと、僕自身は、吉川さんが調査のために実際にどれくらい歩かれたのか、直観的にわかる。私自身が歩いたから。だから「このブログ、ここまでやるのか。すごいな!」と思っていました。

吉川 でも実は、私自身はあのブログはそんなに深い考えがあって始めたものではないんですよ。 

會長 それにしては裏をとってるじゃないですか。

吉川 ブログ開設当初の記事はそうでもないです。

(吉川さんのブログ第1回目(2017年12月4日投稿)はこちら!)

urbansprawl.net

吉川 私はあまり自分の記事を読み返すことはないですが、初期の記事はやはり雑な記事の書き方だと感じます。見たままの印象をただ書いてあるだけです。

でも、それだけだと、見える景色って変わり映えしないんですよ。結局はどの分譲地も空き地ばっかりですから。それでは自分の好奇心も長続きしません。

となると、記事をふくらませたり、切り口もいろんな角度から切っていかなくてはならないので…。

「吉川さんの文章は、本を読んできた人の文章だ」と、會長。次回は、吉川さんの読書遍歴と、今後の執筆についてお聞きします。お楽しみに!