「書評者(=松原商會會長・松原隆一郎(社会経済学者))」と「書評された本の著者」と「読者」を双方向コミュニケーションでつなぐ書店「松原商會」。
ウチの會長が毎日新聞で書評し、「2022年この3冊」にも選んだ『限界ニュータウン』著者・吉川祐介さんをお迎えしておしゃべりする連載「『限界ニュータウン』著者・吉川祐介さん、いらっしゃい」。7回目の今回は、いよいよ「限界ニュータウン問題」の解決について語りあいます。
土地問題について関心がなかった人、よくわからんという方も、ところどころで丁稚が基本的なことを恥ずかしげもなく質問しているので、わかりやすくお楽しみいただけます。
*
會長 小屋を建てる話を書いておられますよね。
僕が連想したのは、いまキャンプがブームだから、土地を買ってキャンプに使う人がいるんじゃないかと。単なる投機ではなく、実需で買う。僕の知り合いでも、高尾あたりにキャンプに行くような男性が少なくありません。
吉川 私も見たことがあります。家が一軒もない分譲地で、以前はただの空き地だったんですけども、久しぶりに行ったら整地されてキャンプスペースが作られていました。
千葉県のキャンプ場は予約をとるのも大変ですが、予約をとったらとったで騒がしいなどの問題が起きます。最近はキャンプ場のマナーが問題になっていますよね。
そういう分譲地に作られたようなキャンプスぺ―スは、よく見かけるというほどでもないですね。いったん土地を買うと手放すのが大変ですから。
會長 吉川さんがこれまで住んでこられたエリアの土地は、買うのは安いとしても、維持費はどのくらいかかるのでしょう? 何十万で買ったとして、持ってるだけだと一年間でどのくらいかかるのですか?
吉川 分譲地に限って言えば、建物が建っていなくて地目が山林だったら、固定資産税はかからないと思います。
でも、たとえば今私が住んでるところがそうなんですけども、水道管が来てるんですよ。上水道。住宅地だったら水道があるほうがいいんですけども、そうなると地目が宅地扱いにされて課税されます。私が持っている土地は30坪、固定資産税は年間4900円です。
會長 そのくらいで収まるのかぁ。
吉川 自分で使うために持っている土地なら全然気にならない金額ですけど、相続した人にとってはきっとおもしろくない話だと思います。見たことも行ったこともない土地について、それまで名前も聞いたこともなかったような自治体から毎年5000円請求されて。
もうそうなると金額の問題じゃなくて、気分の問題になってきますね。自分が相続していやな思いをしてるから、子供には同じ思いさせたくない、と。お金を払ってでも手放したいと思っている人は一定数います。
會長 その土地をキャンプで使いたい人とマッチングできないかな。
吉川 そうなんです。実際そういうサービスもあるんですけど、今の時点ではどれもあまりメジャーになっていません。まともに価格の付く不動産ではないので、手放す側に金銭的な負担がかかる話になってきますから。ビジネスとしても隙間産業的な位置づけにしかなっていません。
税金がかかっていない土地は、みなさん腰が重いですね。売るためにそんな手数料を払わなくてはならないのなら放っておこうか、ということになって…。
會長 九十九里のほうまで単線が続いているから、途中の土地でキャンプできると楽しそうですけどね。
吉川 大体の分譲地はどんな僻地であっても家が1戸か2戸くらいは建ってたりするんですよね。家が本当に1戸もないところって、建物の建築許可がおりないこともあるので、そういうところだと今度は逆に不動産屋が全然扱いたがらないんですよ。そんな土地はまともに売れないので。
「建築許可がおりない」ってどういう場合?
丁稚 「建築許可がおりない」って、どういう場合ですか?
吉川 都市計画法が定めている「都市計画区域」では、土地に道路が接していないといけないんです。
しかし、私が暮らしている千葉県横芝光町もそうなんですが、多くの分譲地が、開発当時はまだ都市計画区域外で、その当時は接道義務がそもそもなかったんです。ですから、その頃はどこにでも家を建てられたし、建築確認申請そのものが必要なかったんです。
ですが、分譲地ができた後にその土地が都市計画区域に含まれると、建築基準法が認める道路に面した土地でないと建物が建てられなくなってしまうんです。
都市計画区域に指定された時点で家が一軒も建てられていなかった分譲地は、そこにある道路は、アスファルトで舗装された道路であっても、建築基準法上の道路として認められなかったところがとても多いのです。するとそこは、「未接道」とみなされてしまい、そのまま建築確認申請が受理されない。つまり” 建築不可の土地 ”になってしまったんです。もしかしたら、土地の持ち主は今でもその事実を知らないままの人が多いかもしれません。
丁稚 なんとかそこに家を建てたい、と思った場合はどうすればいいんですか?
吉川 今からそこを建築基準法上の道路として認めてもらうには、もう一回、開発許可申請を出さなきゃいけません。ただ空き地に自分の家を建てるだけなのに、開発許可申請を出して、分譲地内の道路を認定してもらって…そんな馬鹿げたこととてもやってられません(笑 )。
會長 法律が変わって建物が建てられない、ってことは僕も経験があります。
以前、阿佐ヶ谷で、ある土地を買おうとしたことがあるんです。値段もよかった。ところが、仲介してくれた方が途中で気づいたことがあって。じつは、そこの土地は法律で指定されて、隣の土地と一緒にしないかぎり建物を建てられない物件だったのです。不動産屋はそのことを私に知らせずに売ろうとしていた。
吉川 下町などでも、いわゆる“再建築不可”、つまり建て替えできない古い家がいっぱいありますよね。
昔は、接道の長さが適当でも建築許可がおりて家が建っちゃってたんです。いま計ってみたら、本来ならば道路が2メートル接続していなくてはならないのに1.9メートルしかないことがわかって再建築不可になる、というようなケースが結構あります。
會長 それなりに質を上げようとして規制を厳しくているのかな。そういう場合、建てるのはがまんしなさい、ってことですか。
吉川 そうです。それでもなんとか建て替えたい人がよくやると言われているのが、柱を一本だけ残して、リフォーム。もはや、ほとんど建て替えなんですけど(笑)。そんな話はよく聞きます。柱一本は大げさな話だとしても、原型をとどめないレベルのフルリフォーム。「新築」はできないってことで苦肉の策です。
こんなふうに、法律があとになって変わって、その土地が新しい法律に適合しないために建物が建てられないケースは、都会でも田舎でもあります。
*
次回は、”限界ニュータウン”はほっといたら自然に還って解決するのか?について、吉川さんとウチの會長が語りあいます!