書評者と著者と読者の本屋「松原商會」@PASSAGE by ALL REVIEWS のBlog

社会経済学者・松原隆一郎(放送大学教授、東京大学名誉教授)と丁稚が営む、書評と書評された本と読者をつなぐ一棚書店

#6 シェア型書店PASSAGEで「人気の棚」になるために実行した「6つの作戦」

第一回テーマ「「大正、戦前戦中、戦後と『松原頼介が見た日本経済』」から、さっそく閑古鳥が鳴いている松原商會

ほかの書評家の方たちの棚は、棚主の方のサイン付き著書が飛ぶように売れている様子。それはそうでしょう!著者から直接買える本屋さんなんてほかにないですもの。素敵すぎます。

一般の方の棚も、棚主さんのおすすめの気持ちがあったかく伝わって、お客さんたちが楽しそうに本を手にとっています。皆さんのTwitterを見ていると順調に売れている様子。

それなのに。

頼介伝』&関連本は、松原隆一郎會長のサインだけでなく、関連本には『頼介伝』と関連する箇所を會長にいっぱい選んでもらって、それぞれにコメントを書いてもらった、手間ひまかけた特典付き本なのに。

會長をドトールに呼び出して、コメントカードを切り貼りするのを手伝ってもらったのに。

超多忙な會長は、「『頼介伝』に書いたことがより深く伝わるならば」と思って、時間をさいてせっせと協力してくれたのに。

売れない。

これはひとえに丁稚の力不足です。

丁稚は會長に申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。

會長、ごめんなさい。

なんとしてでも売らねば。

丁稚は作戦をたてました。

作戦1 Twitterの人気アカウントに拾っていただく

松原商會は開店と同時にTwitterを始めていましたので、松原商會の存在を少しでも多くの人に知っていただくために、拡散力のあるアカウントを通して存在を広めていただこう、と考えました。

そこで本関係のアカウントを見てみると、岩波新書さんのアカウント岩波新書に関する一般の人の投稿をもれなくしっかり見つけては「いいね」やリツイートをなさっている様子。

岩波新書さんに拾ってもらおう!

そこで、會長に相談。

丁稚「『頼介伝』の関連本として、岩波新書で何かないでしょうか。」

會長「うーん。……『バナナと日本人』かな。」

ということで、1982年刊行の名著『バナナと日本人』(鶴見良行 著)を、會長にコメントを書いてもらって、関連本として投入。

当時のツイートです。

岩波新書編集部さんが見つけてリツイートしてくださいました!

岩波新書編集部さん、ありがとうございました!

松原商會の存在を知る人がちょっと増えたかな。増えますように。

作戦2 會長が昔書いたレア本を投入

ほかの書評家の方たちの棚みたいに売れたいな。

頼介伝』関係には限界があるし、會長のwikiamazonを見てみるとどうやら會長はこれまでいろんな本を書いてきたようなので、聞いてみました。

丁稚「會長が昔書いた本で、売ってもいいもの、おうちにありませんか?今は手に入らないものがいいです。」

會長「探してみます。」

忙しい中、會長がごそごそ探してきてくれたのが、これらの本。当時のツイートです。

 

「皆殺し」……。1997年刊行ですから、このとき會長41歳。佐藤亜紀さん、福田和也さん、會長の「知の饗宴」のような書評集。書評家棚に置くのにふさわしい一冊です。

1990年刊行。この頃、會長33歳。ノンフィクション作家・岩上安身さんとの共著。會長ご夫婦が、岩上さん、カメラマンの今枝弘一さんとともに、ベルリンの壁が崩壊した直後の1989年クリスマスイヴにベルリン入りし、そこからチェコスロバキアへ、そしてペレストロイカの真っ只中のモスクワで新年を迎えるまでのルポルタージュです。当時の東欧、ソ連で出会った人たちがふともらした言葉、考え、日常生活を通して、共産主義がもたらした現実を伝えます。

會長が執筆活動を始めて間もない頃なんでしょうね。文章の若さに、會長にもこんな時代があったんだ、と親近感を感じます。当時の定価390円の一冊。これは貴重。

 

2002年刊行。會長、46歳。『「捨てる!」技術』などで知られる辰巳渚さん(2018年、バイク事故により逝去)との共著です。

そら豆みたいな會長と、共著者の故・辰巳渚さん

本自体がレア本の価値を持っていることもあって、これらの本は売れました。

でも、この作戦はカンフル剤。長続きする持続的な方法ではありません。

作戦3 「會長と武道の稽古をして一緒に飲む」特典を付ける

社会経済学者である會長は、「空道」という総合格闘技の師範でもあります。

修練は今も怠らず、「水道橋博士のメルマ旬報」というウェブマガジンで、「東大でも暮らし 松原隆一郎の出稽古日記」という連載を10年以上続けて、あらゆる格闘技の道場に出稽古に出かけては、各格闘技界の人を殴ったり殴られたり、蹴ったり蹴られたり、ひっくり返したり返されたりしています。(博士のメルマは2022年終了。)

そんな會長がなんと30年以上ほぼ休まず続けている毎週土曜の稽古&飲み会に、松原商會で本を買ってくださった方を、ご希望の方はもれなくご招待する特典をご案内しました。

 

PASSAGE関係の学生さんがお一人参加してくださっただけでした。

(今でもお受けしていますー。ご希望の方はご連絡ください。)

作戦4 日々のごはんを通して親しみを感じてもらう

顔が怖い會長。経歴もエラそう。言うことも書くこともきつい。

會長本人と会ったことがないかぎり、會長にも松原商會にも親しみを感じようがありません。

親近感を感じてもらうには、どうしたらいいのか。

そこで、丁稚が長らく大好きなNHKのある番組が浮かびました。

丁稚「會長、『サラメシ』作戦です。會長のランチをたまに写真を撮って送ってください。Twitterにあげます。丁稚も投稿しますんで。會長、エラそうだから、少しでも親しみを感じてもらう作戦です。」

會長「了解」

 

會長は「三鷹大勝軒」か「その他、麺類」、丁稚は「クロワッサン」か「お酒」しかでてこないので、ひと月もせず作戦終了。

作戦5 人気のある方にすがりつく

PASSAGEの誰も寄りつかない松原商會の前で丁稚がうなだれていると、山本貴光さんと「哲学の劇場」をYouTubeなどで長く続けておられ、『理不尽な進化』『哲学の門前』などの著書や、書評活動でも知られる吉川浩満さんが!PASSAGEのすぐ近くにある晶文社で編集者としてもお仕事をなさっているので、会社から歩いてこられたようです。

松原商會を少しでも知っていただきたくて必死の丁稚は、松原商會のためにお力を貸していただけないか、吉川さんにお願いをしました。「いいですよ」と承諾してくださった吉川さん。吉川さんの寛大さに涙が出そうになりながら、さっそく、作戦決行。

まず、「お客さん役」を演じていただきます。

 

そして、まだ存在を知られていない、會長のコメント付録を吉川さんを通して、少しでも広く知っていただきたい。

無理やり、『細雪』や『華麗なる一族』の、會長コメントを貼ったページを開いていただきました。

「へえ、中にこんなふうに貼られているんですね。知らなかった。」と、気を使っておっしゃってくださる吉川さん。

吉川さんは、PASSAGEに棚を持つことを考えて来店なさったようで、その場で棚の申し込みをしようとしておられたので、無理やり、松原商會の前で申し込みしていただきました。

そうして、山本貴満さんとお二人の棚「哲学の劇場」をオープンなさった吉川さん。開店以来、搬入なさってはすぐ売り切れ、という大人気の状態が続いておられます。

吉川さん、その節はお力を貸してくださって本当にありがとうございました。

 

そうして、松原商會は再び、人が寄りつかない日常に戻りました。