書評者と著者と読者の本屋「松原商會」@PASSAGE by ALL REVIEWS のBlog

社会経済学者・松原隆一郎(放送大学教授、東京大学名誉教授)と丁稚が営む、書評と書評された本と読者をつなぐ一棚書店

# 9 「謎の上得意さま」が突然、「神戸の旅」に連れてってくれました

突然現れた松原商會の上得意様「小日向さん」が松原隆一郎會長の著書『経済思想入門』(ちくま学芸文庫)をお買い上げくださってしばらくたった頃、小日向さんからTwitterを通して一枚の写真が届きました。

PASSAGEから700キロ先?……小日向さんどこにいるの?

写真に目を凝らした丁稚は、あるモノが写ってることに気づきました。

写真の黄色い線で囲んだ部分をご覧ください。

黄色で囲んだ部分にご注目

経済思想入門』がいる! 會長コメントカードも一緒にいる!

どうやら小日向さんが、『経済思想入門』とちっちゃい會長を連れてどこかを旅している様子。小日向さんどこにいるのー?

丁稚はリツイートして小日向さんに聞いてみました。

すると、小日向さんからリプライが。

ここが神戸なんだ。

丁稚は行ったことがない神戸の港に見入りました。小日向さんと『経済思想入門』とちっちゃい會長と一緒に神戸を旅してる気分。

やがて、小日向さんからあらたな写真が。

小日向さんが送ってくださった4枚の写真の1枚1枚に目を凝らします。

順に見ていきましょう。

まず1枚目、左上の写真。黄色の線で囲んだ駅の名前にご注目ください。

魚崎駅だ!

小日向さんがいるのは魚崎駅! 會長が生まれ育った神戸の町です。

魚崎については、會長が、會長の祖父、頼介さんの「無名の起業家人生」を、” おじいさん(頼介さん)の製鋼会社を継げと言われて東大工学部に入らされたのに、会社が川崎製鉄に買収されて継ぐ必要がなくなったから、経済学を学び始めて社会経済学者になった孫 ”として書いた『頼介伝』に書かれています。

會長が書いた魚崎の地図はこちら。

住吉川に沿って、頼介さん邸や、『細雪』を書いてた頃の谷崎潤一郎邸(倚松庵)、頼介さんの碁仲間で「これからは鉄の時代だ!」と頼介さんに繰り返し言ってた川崎製鉄初代社長・西山弥太郎邸もあります。(頼介さんは西山弥太郎の影響で製鋼会社を起業します。)

そして2枚目、右上の写真。

経済思想入門』&ちっちゃい會長が、小日向さんと一緒に港を眺めてる。ここがきっと東灘。

そして3枚目、右下の写真。

「東出町にご同行いただきました」と書いてあるから、きっとここ、東出町なんだ……!

東出町は『頼介伝』に登場する、頼介さんがフィリピンから流れ着いた町。不思議がいっぱい詰まった町なのです。(詳しくは、鹿島茂さんと會長が『頼介伝』について語り合った対談 をお読みください。)

写真に写ってる『経済思想入門』とちっちゃい會長がうれしそう。小日向さんに東出町へ連れていってもらったんだね。よかったね~。

そして、4枚目。

説明板を拡大してご覧ください

横溝正史生誕の地!ここも東出町界隈です!

頼介伝』に書かれているように、東出町は、神戸で生まれ育った會長も名前すら知らなかった町なのですが、會長の祖父、頼介さんが住み始めた1918(大正7)年頃、『犬神家の一族』『八つ墓村』などで知られる作家・横溝正史もすぐ近くに住んでいたことがわかりました。會長が調べた結果、頼介さんと同じ時期にこの界隈に住んでいたことがわかったのが、以下の人々。

山口組初代・山口春吉

日本画家・東山魁夷

ダイエー創業者の中内功

みんな、頼介さんと道ですれ違っていたはず。

そして、丁稚がじんわり感動したのは、ここ東出町こそ松原商會のルーツだからです。東出町こそ、頼介さんが、1922(大正11)年2月1日、「松原商會」を設立した場所なのです。

小日向さんの手の上で、『経済思想入門』も、ちっちゃい會長も、感動で涙目になっています。もちろん丁稚も。

小日向さんからの、『経済思想入門』とちっちゃい會長を連れた「『頼介伝』の旅」の報告を、実物の會長に急いで報告しました。

連絡を受けて、阿佐ヶ谷で興奮している様子の実物會長。すぐさま、會長は小日向さんに呼びかけました。

東出町にある「お好み焼きひかり」さんは昭和20年創業のお好み焼き屋さん。會長が『頼介伝』の取材で知った、このあたりで人気のお店だそうです。

いや、まさかそこまでは小日向さんも……と思ってたら

なんで?!

なんかわかんないけど通じ合ってる小日向さんと會長。二人につられて丁稚も感動!

ちょっとご説明しますと、「サカエ薬局」はダイエー創業者・中内功の実家です。今は建物はなく、跡地に碑があるのですね。

やがて、會長は、別の場所に移設された「サカエ薬局」の建物の写真をアップ。

すると、小日向さんからリプライが。

今はなき喫茶店「ベニス」も、會長が『頼介伝』執筆のための取材のときに立ち寄ったお店。小日向さんはどうやら「ベニス」の常連だった様子……。

どういうこと?

阿佐ヶ谷から、會長すぐさまリプライ。

小説を片手に作品中に書かれた場所をたどる、ということはありそうですが、まさか経済思想の入門書を片手に、別の著作、それも會長のおじいさんの人生をたどった著作に登場する、おじいさんが大正時代に生きた場所をたどってくださる読者の方が現れるなんて、『経済思想入門』執筆時の會長は想像もしなかったことでしょう。

すっかり感動した會長&丁稚。

會長「小日向さんに何かお礼をしたいなぁ。」

そこで、會長は小日向さんにある申し出をします。

(続く)