【このおしゃべりは、2023年4月26日に東京・神田神保町にて行われました。】
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丁稚 本日は、『限界ニュータウン』(太郎次郎社エディタス)の著者、吉川祐介さんを神保町PASSAGE by ALL REVIEWS内の「松原商會」にお招きしました。松原商會がお迎えする最初のゲストです。
松原隆一郎會長(以下、會長) ようこそおいでいただきました。
吉川 よろしくお願いいたします。
丁稚 今日は吉川さんが青山のNHK文化センターで講義なさる日(2023年4月26日)とのことで、千葉県横芝光町から東京にいらっしゃるついでに無理やり會長&丁稚とおしゃべりしていただくべく、松原商會が棚を持つ神保町PASSAGEにお運びいただきました。
松原商會では、會長が毎日新聞書評欄「2022年 『この3冊』」に選んだ本(2022年に書評欄で書評した本の中からとりわけ評価する3冊を選ぶもの)を月に1冊ずつ、松原商會オリジナル特典を付けて棚でお売りしつつ、著者の方々をお招きして會長とおしゃべりしていただくシリーズフェア企画を始めました。
その1冊目が『限界ニュータウン』、吉川さんがお一人目のゲストというわけです。
フェアの開始は年明けすぐのはずだったんですが、こうして4月も末になったのは、ひたすら丁稚のとろさゆえで恐縮です。
會長 丁稚、ちゃんと働いてくださいよ。
丁稚 今回、吉川さんのご著書『限界ニュータウン』にお付けする松原商會オリジナル特典は以下の3つをご準備しました。
ひとつめは、會長の毎日新聞書評。
ふたつめは、會長の書評への吉川さんからの手書きコメント返しカード(はがせるシール)。Twitterのアイコンにも使っていらっしゃるかわいいイラストも描いていただきました。
みっつめは、松原商會の棚の前で撮らせていただく吉川さんと會長の記念写真(本記事冒頭の写真)です。
吉川さんはYouTubeチャンネル「資産価値ZERO -限界ニュータウン探訪記-」がチャンネル登録者数 12.9万人(4月末時点。8月22日現在は13.5万人)と大人気ですが、先にブログを始められているのですね。
千葉県内で、かつて分譲地として乱開発され、今は荒地と化している土地を「限界ニュータウン」と名づけ、ご夫婦で実際に住み、生活しながら、そうしたエリアの現状を「住民」としてレポートしていらっしゃいます。
吉川 YouTubeでの動画投稿を始めたのは、元々、本の宣伝のためなんですよ。版元が大手ではないので、自分で宣伝しないと絶対売れないと思ったのです。出版社の方にも、著者自身で宣伝するかしないかで売上が全然違ってくる、と言われましたし。
會長はなぜ、『限界ニュータウン』にいち早くビビッときたか
會長 僕の書評が毎日新聞に掲載されたのは、奥付の発売日だったんですよ。発売日前に目をつけていました。
吉川 出版社の人も、発売日に書評が載るなんて異例の早さだと驚いてました。
丁稚 會長は、吉川さんの本のどこにビビッとこられたんですか?
會長 僕は、祖父の人生をたどった『頼介伝』(苦楽堂)を書いたときに、土地の登記簿を調べた経験があるんです。頼介がいつどこの土地を購入したのか、会社を始めたのかなどを知りたかったから。閉鎖土地台帳までたどって、その作業で登場人物の心境に触れた気がしました。吉川さんも同じように登記簿を見ておられるから、「この人は分かってるな」って。
ニュータウンの研究って、観念の操作になることが少なくない。見田宗介さんの社会学はリアルさ(現実)を感性からとらえていて、現実の対として意識されたのが、1945〜60年は「理想」、1960〜75年は「夢」、1975〜90年は「虚構」だったとしています。
この図式の影響は大きくて、住宅地に置き換える人もいる。ニュータウン計画が未来都市として描かれたのが「理想の時代」、マイホームが住宅双六の「上がり」として実現した「夢の時代」、実現しそうもないので嘘でも人が戯れるようになった「虚構の時代」というように。
でもこれだと理想や夢が分類で終わってしまう。
土地を台帳や登記簿まで調べて裏付けをとった人は珍しい。 吉川さんの『限界ニュータウン』は、ちゃんと現実の不動産の話をおさえている。 僕は不動産と社会学の間みたいなアプロ―チのほうがおもしろい。だから、『限界ニュータウン』は、僕的に好みの本だなぁってぴんときました。
「著者が最大の謎である」
丁稚 「著者は何者なのか。それが最大の謎である。」って書評に書いていらっしゃいましたね。
吉川 僕の両親がそれを読んで爆笑してました。
會長 バスの運転手とコンビニ店員をしている方が、これだけ深く不動産とまちづくりの研究に取り組んでいるって、やはり謎でしょう!
丁稚 ところで、今回、本にお付けする特典として、吉川さんのTwitterアカウントのアイコンのかわいい女の子が吉川さんのイラストだと知って、絵を3種類描いていただいたんですが、なんでこんなにイラストが上手なんですか?
吉川 昔は漫画家になりたかったんです。
會長 丁稚、吉川さんの漫画、読んだ?
丁稚 え!作品があるんですか?
會長 読んでないの? ダメだねぇ。キャラが尖ってるよ。ネットで読める。今回、本に付ける特典として描いていただいたこの女の子が姉妹で出て来る。
吉川 漫画は、あんまり、自分からアピールすることはないんですが…。以前はTwitterなどのプロフィールでも紹介していたんですけど、YouTubeを始めてからTwitterのフォロワーさんも増えてきたので、紹介するのは止めました。もう10年以上前の作品で、作品の中に、今の時代ではあまり受け入れられない表現やセリフがあるからです。
それもあってここ数年、自分からは漫画の宣伝は一切しないようにしていたのですが、最近になってYouTubeの公式ショップを開く機会があったので、今はそこでオンデマンド印刷で製本したものを販売しています。
丁稚 今もWEBで読めますか?
吉川 はい。ジャンプのサイトに載せて、消し方がわからなくなっちゃったんで 。
(*吉川さんのマンガはこちらの2か所で読めます。(同じ作品です))
會長 だから、特典に描いてくださった女の子は、吉川さんオリジナルのキャラクターというわけです。
丁稚 貴重な特典を付けさせていただけて光栄です!
吉川 その絵しか描けないんです(笑)。
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続きの2回目では、吉川さんが持参してくださった限界ニュータウンの広告をみんなで見たり、吉川さんと會長がともに経験した調査の苦労話などで、お話がさらに弾んでいきます。どうぞお楽しみに。