書評者と著者と読者の本屋「松原商會」@PASSAGE by ALL REVIEWS のBlog

社会経済学者・松原隆一郎(放送大学教授、東京大学名誉教授)と丁稚が営む、書評と書評された本と読者をつなぐ一棚書店

#12  「本は敵」と言う松原隆一郎會長の、「敵じゃない本」

# 読書好きな人とつながりたい

# 本好きさんとつながりたい

―― Twitter(Xのこと。以下、同じ)に流れてくる、本LOVE系ハッシュタグ

松原商會のTwitterでも使ってみたい。

でも、松原隆一郎會長、「本は敵」って言ってるから( 詳しくは「#5 「本は敵」と思ってる人がシェア型書店に棚を持つ場合」をお読みください )、松原商會はこういうハッシュタグ使えなさそう…。

丁稚がしょんぼりと店の前をホウキではいていると、會長が自転車でキコキコ出勤してきました。

會長「おつかれさん。お客さんは来たかい?」

丁稚「いつもどおり来ません。會長、商いを成功させるにはやはりSNSの効果は大きいらしいです。松原商會もちまちまとTwitterをやってるわけですが、いまだネット上の孤島状態です。ずっと會長と丁稚だけでぷかぷか浮いててもしょうがないんで、松原商會の存在をまず世の中で知ってもらうには、誰かとつながらなきゃ始まらないわけなんです。」

會長「つながるってどうやって? だって、松原商會は浮くものなんだよ?(詳しくは # 4 シェア型書店PASSAGEで、さっそく浮く。  をお読みください!)」

丁稚「浮くことを松原商會の本質にしないでください!松原商會だって友達がほしいです。だから、Twitterハッシュタグを使って、つながりを作っていきましょう。松原商會は一応本屋だから、本に関するハッシュタグを付ける必要がありますね。」

會長 「#本は敵 」

丁稚「だめです。つながる基本は、『愛』とか『好き』とかの共有なんです。」

會長「どんなハッシュタグがあるの?」

丁稚「さっき見てみたら、#本好きさんとつながりたい とか……」

會長「キモチワ……」

丁稚「言っちゃだめ! 商いのために羊の皮をかぶるんです。會長にも子どもの頃はあったでしょう。小学生のときは ”好きな本”、あったのでは?」

會長、考え込むかと思いきや、即答。

會長「うん。あった。『天使で大地はいっぱいだ』。」

阿佐ヶ谷の書庫から、會長が所蔵の『天使で大地はいっぱいだ』(後藤竜二・作 市川禎男・絵、1967、講談社)をご紹介

會長「4年生のときに読んだな。」

丁稚「會長も児童書を読んだんですね。」

會長「……僕、読書感想文が大嫌いでね。」

丁稚「先生に添削されて『なんでおまえの馬鹿陳腐な感想を僕が書かされなきゃいけないんだ?この低能が」とかイラついてたかんじですか?」

會長「いや、違う。

読書感想文って、課題書があるでしょ?あれがダメ。推薦なんかされたくないんだな。

僕が感想文を書きたかったとしたら、ロボットとロボットが闘う『鉄人28号』や『鉄腕アトム』とか、巨大キノコの怪物が襲ってくる『マタンゴ』とか。

鉄人28号』(作・横山光輝

鉄腕アトム』地上最大のロボットの巻(上)(作・手塚治虫

マタンゴ』(監督: 円谷英二特技監督)・本多猪四郎(監督)、脚本:木村武、 原案:星新一福島正実)1963(昭和38)年8月11日(ちょうど50年前の今日!)に公開された日本の特撮映画

僕の感想は自分だけの理屈で出来てるんで、他人の感想には興味がないんだよ。

たとえば、芭蕉の句っていうのは、身体を動かして見えた風景を詠んだ句がジーンと来るんだよね。でも昔の句からこう連想したとか、古典俳句の教養を自慢してるみたいな評論が多い。僕はどこかで聞き覚えたような理屈はまったく書く気になれないし、そもそも自分の気持が動かないと文章にするのは苦痛なんだな。

だから、『感想を書け』って言われても、何も書くことがなくて、ものすごく苦痛だった。

そんな中で、この『天使で大地はいっぱいだ』は、24歳の新任女性教諭のスカートに泥水をはねかけたり、ニワトリの首をシメて焼き鳥にしたり、子どもがドキドキすることが描かれていたんだ。」

丁稚「書評でほめてるふりして泥水はねかけたり、批判で精神的にシメたりしている現在の會長にもそういうことにドキドキしてた子ども時代があったと知って、ほんわかします。

もちょっと大きくなった頃に読んだ本では、好きだったなぁと思い出すものありますか?」

會長パール・バックの『大地』だな。

灘中に入ってすぐ、1年のときに読んだ。何巻もある大長編だけど、読み始めたらもう止まらなかった。あの作品は、” わらしべ長者 ”なんだよ。貧しいところから、どんどん成功していくのがおもしろかった。」

丁稚「文学的感想でないのが會長らしいです。

大人になってからはどうですか? 28歳で東大の先生になっちゃったから、それ以降はすべての本が敵になってしまったんでしょうか。」

會長「ううん。好きな本、ある。」

丁稚「?! 何の本ですか?」

會長「『ラーメン発見伝』」

會長のバイブル

丁稚「會長、ラーメン大好きですもんね。(#6 シェア型書店PASSAGEで「人気の棚」になるために実行した「6つの作戦」参照)

會長「いや、単純にラーメンの話だからっていうことじゃなくて。いかにしてラーメン店を繁盛させていくかという経営論で、一話、一話、すごく深い。

ネット情報をさも自分の感想みたいに自慢して食べる客の話とか納得だよね。グッとくる味も感じてないのに、有名店ということで美味いと感想を言う人たちが、その店の人気をさらに高めていく構造。こういう話が一般のマンガ作品として読まれていることはおもしろいなぁと思う。『ネット情報を自分の感想みたいに言い立ててる』って図星言われても、自分のことだと思わないんだろうな。」

「ヤツらは本を読んでるんじゃない。情報を食ってるんだ!」……丁稚も言ってみたい~

丁稚「ふぅん……いま聞いてて思ったんですが、松原商會は、ラインナップも、特典として付けている會長コメントも、會長の書評も、総合的に考えて知的レベルにはかなりの自信を持っているのに全然売れない理由が、『ラーメン発見伝』を読むとわかりそうな気がします。」

會長「丁稚はどんくさいのにたまにカンがいいね。まさにそう。松原商會は、高品質の材料にこだわって、丁寧に時間をかけてスープをとって、何十年も試行錯誤してたどりついた味をお客さまに提供することにこだわっている、倒産寸前のラーメン屋なんだ。」

丁稚「なんか落ち着く響きですが、倒産は困ります。売れるためにはどうすればいいんでしょうか。」

會長「最高のスープに意識高い系の脂をどっさり入れるのだ。そうすれば客は来る。」

丁稚「それって……店に置いている本は、會長セレクトの本と、會長の著書なわけですから、會長がエモい本書くとか、みんなが言ってることを會長も書いて共感を得るとか? 會長、ちょっとやってみます?」

會長「いやだ。」

丁稚「ですよね……。

” 倒産すれすれ ”こそ松原商會の本質なんですね。丁稚、本質をだいじにしていきます。

でも、松原商會の存在はもうちょっと知ってほしいから、ハッシュタグ作戦はやってみましょうか。本LOVEを装ってもウソってばれそうだから、「#読書感想文大嫌い 」 とか、「 #シェア型書店で売れない店」 とか、松原商會なりに共感を感じてもらえるハッシュタグを探しましょう。會長も考えてください。」

會長「はい。」

 

そんなわけで、松原商會は近々、Twitterハッシュタグを付けてみるかもしれません。

(松原商會が路面店という設定はフィクションです。)